自分で獲ったシカをレザーへ加工「やさしい革-マタギプロジェクト-」へ皮なめしの依頼をしてみた
こんにちは。山と川と暮らし(@yamakawakurashi)です。
自身で毛皮なめしをやってきましたが、今回は業者さんへなめし依頼をしたのでその経緯と方法をお届けします。
「山と川と暮らし」は、標高1150mほどの山のふもと、ちょうど本州の真ん中あたりに暮らす夫婦(30代)+犬の屋号です。狩猟をする私、釣り好きな夫、犬はイーヨーみたいなセッター。
※皮から革へ変わる過程を紹介しています。一部生々しい写真もあるので、苦手な方は閲覧をひかえてください。
※皮と革、毛皮とレザー、言葉が指す状態について…一般的に「皮」はなめす前の状態、「革」はなめした後の状態を指しますが、毛皮についてはあいまいな部分もあるので、ここでは「毛皮=毛がついた状態でなめしたもの」、「レザー=毛を抜いた状態でなめしたもの」としています。
(※2021年6月15日に公開した記事を再編集しました。2021年9月に申し込み方法などリニューアルされたようで、わかる範囲で変更になった点を追記しています)
やさしい革、マタギプロジェクト
北海道在住時に毛を抜いた革(レザー)作りのお手伝いをしましたが、毛皮とくらべると手間と時間がとてつもなくかかり、自分ひとりでやるのは無理だと実感。
なめし業者さん(タンナーと言うらしい)は、豚や牛など家畜をメインとするところがほとんどで、野生動物のなめしを請け負ってくれる業者さんは限られています。
そんななかで野生動物のなめしを1枚から請け負ってくれる「マタギプロジェクト」というのがあるらしい…と知って。いつかお願いしたいなと思っていました。
皮を準備する
2021年の3月、くくり罠にシカが3頭かかりました。
3頭ともメスの成獣。今までの毛皮なめしの経験上、0歳や1歳までは小ぶりで、小さい分手間は少ない。成獣は手間がかかり、少し大変です。
3頭とも業者さんにお願いしようか…と思いましたが、よく考えれば、今の山麓地域に引っ越して、はじめて自分で獲ったシカ。
1頭は自分で毛皮なめしに、残りの2頭分を業者さんへ送ることにしました。
毛皮なめしの様子はこちら
下処理・保管
下処理と保管方法が完成する革の善し悪しに影響するそうです。下処理とは、皮に残った肉や脂を取る作業。レザーに仕上がった革と比較するため1枚目、2枚目と皮の状態の作業写真を載せます。
1枚目(3月24日捕獲)
▼ 解体後すぐの皮、砂利や落ち葉を洗い流します
※解体の段階で、皮を切らないように注意していましたが、数カ所穴があいてしましました…
※やさしい革さんの獣脂・獣肉処理事例集によると、頭部はつけない、四肢・股は筒状にせず切り開く
▼ 大まかな肉・脂を取った状態
毛皮なめしをする場合、もう一段階ナイフでこそげ落としますが、業者さんへ出す場合、多少の取り残しは大丈夫とのこと。
▼ 動画にて準備の様子を細かく紹介してくれています
肉や脂の除去が終わった皮、このままだと水分を含んで重いので、しぼって水気を切ります。
▼ 一晩、屋根のあるところにかけておきました
まだ水気は残っていましたが、この後、ビニール袋へ入れて大型の冷凍庫へ保管。※複数枚まとめて送った方が、事務手数料と送料が浮きます。(送る段ボールに入れて冷凍しないとかさばって送料がかさんでしまうので注意!)
そんな大きい冷凍庫ない…と言う方は、塩蔵するか、クール便ですぐに発送するといいと思います。
※塩蔵は、塩漬けにして腐敗を遅らせる方法。しっかり水気を切れていれば、常温でも保存できるそう(こわくて私はまだやったことない)。
ホームページによると乾燥したものもなめせるそうで。毛皮なめしに失敗した(ところどころ毛が抜けてしまった)ものを請け負っていただけるか問い合わせしたところ、ミョウバンに漬けたものは請け負えないとのことでした(残念…)。
余談ですが…シカが1頭獲れるとまずお肉の処理が大変。解体(ものすごい体力使う)、体重100kgで30kgほどの肉になるけど家庭用の冷蔵庫にはそんなに入らず、知り合いに配りまくる…などなど大忙し。皮の処理は後回しにしがちですが、気温が高くなると腐ってしまうので時間との闘いです。※大型の冷凍庫があれば、冷凍庫に保存して時間のあるときに下処理をしてもいいですね。
2枚目(3月31日捕獲)
3月31日に獲れたシカは、あまり手をかけてやれず…。
穴をあけずに解体できたのですが、手足の脂除去が手間でざっくり切りました。(リンクの動画では「半袖・短パンの状態に」と表現されていますが、これだとノースリーブ…)
ちなみに、シカの運搬・解体・下処理にジャンボスレ-がとても便利です。雪がなくても土の上だったら引いて運べる!!▼https://amzn.to/3GAsKsl
なめし加工申し込み
皮の算段がついたので、申し込みをします。
はじめての人は、1枚目が「試作」あつかいになるそうです。試作加工申込書と事前アンケートに記入し、4月3日にFAX送付。
返信を待ってから皮の送付かと思っていましたが、ホームページをよく読んだらFAXを送ったら発送していいとのことだったので、4月8日にクール便(冷凍)で2枚まとめて送付。(発送先住所はホームページに記載あり、土日祝日はお休みなようなので平日着になるよう注意)
受付完了の連絡はなく、ちょっぴり心配でしたが、ちょうど銃の所持許可更新やおやしらずを抜いたり、ゴールデンウィークでバタバタしているうちに請求書が郵送にて届きました。
2021年9月からWEB申請が可能になったようです。登録フォームはこちら
WEBショップにてメンバー登録が必要。その代わり事務手数料が無料になります。(逆に今まで通りの「書面での依頼」には、別途パートナー登録(年会費個人3万円)が必要になりました)WEBに登録するにはメールアドレスが必須、皮を確保する前に登録だけは済ませておくとスムーズです。
請求書が届く
ゴールデンウィークが落ち着いたころに「山と川と暮らし」あての郵便物が。開けてみるとやさしい革の紹介や請求書が入っていました。
(この屋号ではじめての郵便物、すごくうれしかった…)
料金形態は、試作は1万円で送料込み。
2枚目以降は下処理が適切か、皮の大きさにより料金が変わります。
下処理×…1万円、▲…6000円、○…5000円
120cm以上+1000円(140cm以上は2枚分の料金へ)
通常は1申請ごとに返送分の送料2000円、事務手数料1000円が別途かかるそうです(今回は試作に送料が含まれているので事務手数料のみでした)
下処理がちゃんとできていたのか不安でしたが、適切な処理ができていたようでほっとしました。
なめしが終わり、発送のめどが立ったから請求書がきたのかと思いましたが、よくホームページを読んだら、申請した月末〆、翌月上旬に請求書発送だそう。
いずれにせよ先払いなので、翌日に入金。
2021年9月から、新しい料金形態&申請時に事前決済に変更になりました。サイズごとに値段が変わるので、下処理の段階で大きさ(シカなら80・120・140cm以下の3段階)を測る必要があります。送料は変わらず2000円+税、WEB申請だと事務手数料は無料。
今までは下処理不適切でも料金を上げることで受け付けてくれていたようですが、今回の変更後は受付拒否(返送)になるのかな…?ホームページに明確な記載を見つけられなかったです。
手元に届く
若干忘れかけていたころに届きました!4月8日発送、完成品は5月29日に届いたので、1ヶ月半くらいでしょうか。
▼ 大きさ比較のため犬に入ってもらいましたが、全然比較になってない…
開けてみると、2枚一緒に入ってました。
洗濯ばさみのあとみたいなのが外側に点々と(挟んで干すのかな?)
上部(首元)の穴は、個体識別のための目印のようです。そのほかは解体の時につけてしまった穴…(下準備の写真と見比べてみてくださいね)
下準備のときに気がつかなかった傷もありました。毛側の傷なので、生きていたときのすり傷なのか、解体・運搬時に地面を引きずったときにできたすり傷なのか…。
2枚目のシカ
四肢の部分は端材になりそうなので、手間を考えると切ってしまってもいいのかもしれません。
よく見ると、背中に黒っぽいシミがぽつぽつと。
下処理の写真と見比べると、血で黒くなっていた部分と重なる?内出血はシミになってしまうのかな…。
あらためて見比べると、いろいろ勉強になります。
まとめ:シカの皮は肌触りも良く、とってもやわらかい革
シカの皮を「やさしい革」さんへなめし依頼したら、肌触りも良く、とってもやわらかい革になって帰ってきました。
2回目以降は、加工依頼書(試作請求書に同封)にて申し込みをするようです。初回では指定できなかった色の指定ができるようになります。
今回はシカでなめし委託をしましたが、ほかにもイノシシ、クマ、キョンも可能(クマは料金+5000円ほど)。
それぞれ質感が異なるようなので、機会があれば依頼に出してみようと思います。
レザークラフトは超初心者で、これから勉強しなければならないのですが、何をつくろうかとってもわくわくします。生活の中になじむ自然のかけらをつくれるといいな。
2021年9月より「1枚目は試作扱い」の制度もなくなったようです。はじめての依頼でも色の指定ができるみたい。最新の情報はやさしい革さんのwebサイトで確認を。
自然のかけらをつくる
ここから先は、方法ではなく「想い」の部分です。
「山と川と暮らし」は、生き物の「美しさ」や「たくましさ」を伝えたい、「自然のおもしろさ」に気づいてもらいたい、そんな想いをきっかけに、このブログをはじめました。
人に何かを伝えたいとき、自分で何かを覚えたいとき、文章や写真だけではなく「実際に手でさわってみる」方法があります。
体験すると楽しいし、印象に残る。博物館でも「ハンズオン展示」というのがありますよね。
博物館などの展示施設において、じかに展示物・展示装置に触れて体験学習できるような相互作用的(interactive)展示形態。利用者(とくに子ども)の五感に働きかけることで、関心や理解を向上させるねらいをもつ。
EICネット 環境用語集:「ハンズ・オン」よりhttps://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2222
生き物や自然に興味を持ってもらうことは、狩猟や野生動物の保護管理、自然環境に関わるさまざまな「課題解決」につながる第一歩だと思っています。
その裾野を広げるためには「畑違いの人に振り向いてもらう」が、高いハードルだと思っていて。ハードルを越えるには、普段の暮らしの中にすっとなじむ「自然のかけらを作る」のが良いんじゃないかと考えました。
自分の手で捕獲からなめすまでやってみて、完成した毛皮には愛着がわきますが、それを生活の中に取り入れるとなると…イメージがわかない。
結局、我が家の納戸でくるくると巻かれた状態で保管。環境教育のイベントや狩猟の普及啓発イベントがあればここぞ!とばかりに引っ張り出しますが、「畑違いの人」の目に触れる機会は少ない。
毛皮だとどうしても「生き物感」が出てしまい、生活に結びつきにくい。ありのままの姿で出したいけど、使いやすさや受け入れやすさを考えると「より加工する」のも一手じゃないか…
ということで、すでに日常でも多く使われている革(レザー)に挑戦してみました。
まだまだやっとスタートラインに立ったばかりですが、どうぞあたたかく見守っていただけたら幸いです。
▼ こちらの記事もどうぞ(なんで狩猟?なめすの?をまとめた記事)
▼ 毛皮なめしの方法をまとめた記事
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