【狩猟のこぼれ話】私が皮をなめす理由-山を駆ける生き物へ関心を持って欲しい-
こんにちは。山と川と暮らし(@yamakawakurashi)です。
今回は、狩猟や皮なめしに対する想いの部分のお話です。皮なめしの方法は出てきません。あしからず。
※山と川と暮らしは専門家ではないので、自分でやってみたことをもととした経験談や考え方の共有になります。経験としては毛皮なめしを5枚ほどやってみた程度(2021年現在)。まだまだ試行錯誤の段階です。
※狩猟や命に対する思想について触れています。いろいろな考え方があって良いと思うので「そんな考え方もあるのね」と読んでいただければ幸いです。
皮なめしとは?
【鞣す-なめす-】動物の生皮から不要なたんぱく質や脂肪を取り除き、薬品で処理して、耐久性・耐熱性・柔軟性をもたせる。「鹿皮を―・した手袋」
デジタル大辞泉より
皆さんの生活の中に革製品はありますか?
手袋や財布、カバン、椅子の座面などなど素材を革とするものは日常生活に意外とたくさんあります。
革製品はフェイクレザーでない限り、もともとは皮でした。革は皮であり、おおもとは生き物です。
皮を革へ、くさらないように加工するのが「なめす」こととされています。
https://www.y-leather.jp/
一般社団法人やさしい革
▲ 野生動物のなめしを請け負う「MATAGIプロジェクト」を行っている団体さんです。
山を駆ける野生動物
野生動物をまじまじと見たことはありますか?
このあたりの田舎では、キツネやイノシシ、シカをたまに見かけます。ツキノワグマも居ますが、姿を見かけることはまれです。
存在を知っていても実物をまじまじと見る機会はほぼありませんよね。まして、触れる距離で見ることは皆無。
狩猟をしていると、その野生動物を見る機会は多くありますし、実際に触れることもあります。
見とれるほど、うつくしい
実物は、とても美しいです。
先輩猟師さんの間でも、ヤマドリの飛び立つ姿があまりにも美しくて思わず見とれてしまったという話が出るほど。
(オスのヤマドリは狩猟鳥獣ですが、火の鳥のように赤茶色で長い尾羽がうつくしいのです!写真はないので「ヤマドリ」で画像検索してみてください)
思わず感心する、野生動物の生き抜く工夫
野生動物の体にはきびしい自然を生き抜く工夫がたくさんあります。
シカの夏毛は明るい茶色に白い斑点。
鹿の子(かのこ)模様やバンビ模様と呼ばれます。
シカの出産ピークは6月。このころの木は葉を大きく広げ空を覆い隠す勢い。森には葉っぱの間をすり抜けた日の光が差し込みます。地面には木漏れ日がゆらゆらと心地良い。ハンモックを広げてのんびりするにはもってこいの季節です。
さて、生まれたての子ジカは、シカをそのまま小さくしたような格好で生まれてきます。背中にはしっかりと鹿の子模様を背負って。
シカは草を食べて育つ草食動物。草食動物はライオンなど肉食動物に狙われる存在です。
なので、草食動物は生まれてまもなく走り出せるようになるべくお母さんのおなかの中で育ち、ある程度大きくなってから生まれてきます。
(エゾシカの場合、6~7kgくらい、対してヒグマは400gくらい)
生まれたての子ジカはしばらくして歩くようになります。でも、おとなほど歩き回れないので、生まれて1週間ほど草むらなどで身を隠して生活するそうです。
じっと動かないと、背中の鹿の子模様は木漏れ日と見間違うほど似ています。「木漏れ日にカモフラージュしている」のが正解か、シカに聞かないとわかりませんが身を守ることに一役買っているのは明らかです。
実は、おとなも。夏はみんなで鹿の子模様です。
冬毛は灰色っぽい茶色。これは葉っぱが落ちた木に同化します。
聞いた話によると、シカの毛は中が空洞でストローのようになっているらしく、空気をまとうことで防寒をしているらしいのです。なんて機能的!!
しかも、うっすら鹿の子模様が残っていたりして、とてもきれいです。
実際に触ってみる
実際に触ってみると、シカの毛はゴワゴワ、ガサガサしています。たしかに、空洞っぽい。
北海道のアイヌの人たちは、シカの毛皮を防寒具としてつかっていたそうです。たしかに、あったかそう。
https://www.city.sapporo.jp/shimin/pirka-kotan/jp/kogei/yuk-ur/index.html
▲ 札幌市・アイヌ文化交流センター:伝統工芸品の紹介”ユクウル”
山の中では一瞬しか見られなかったとしても、こうやって手元でじっくり見てみたら。
「あれ、こんなにも大きいの?」とか、「うわ、すごいきれい!」とか、実際に見て、さわって、発見がたくさんあります。
なんでこんな色なのとか、なんでこんな構造なのとか実際に山で暮らしている姿を想像して、「あ、なるほど」と納得したりして。
実物をじっくり見ること、触ってみることでより身近に、ぐっと親近感が出てきます。
世の中にこんな美しい生き物が居る、しかもアラスカとかどこか遠い場所ではなくて、ご近所に住んでいる、そのすごさに気づいてほしい。
私の場合、シカやイノシシ・クマが身近な環境ですが、都会で見られるスズメやヒヨドリも実物をまじまじと見てみるとこんな顔してたの?とか、ほっぺたの赤がきれいとか、発見がいろいろあっておもしろいですよ。
山を駆ける生き物や身近な生き物に、ちょっとでも興味を持って欲しいのです。
▼ ここから先は狩猟に対する少し重たい話…個人的な考え、まだまとまりきっていないふわふわしたところがあるので、「そういう捉え方もあるのね」くらいに読んでいただければと思います。
なんでなめすの?
狩猟をしているとなんで?動機は?きっかけは?とよく聞かれます。
「生き物が好きだから」「野生動物のことを知りたくて」「環境を護りたい」目的を挙げればたくさん出てきますが、きっかけは「たのしそうだし、やってみたい」という単純なことでした。
皮なめしも「捨てるのはもったいないし、どんなものかやってみたい」というのがはじまりでした。ゆくゆくは自分でなめした革を日用品として生活の一部にできるとすてきだなぁくらいの気持ちで。
せっかくの命、無駄なく活用したい
人間て不思議なもので、矛盾した気持ちを持っています。罠にかかった獲物と対峙したとき、ごめんねと口に出る。必死に生きようとする目にたじろぎ、手が震える。こんなにつらいのであればやめようかと想うときもある。
それでも、生きることは「ほかの命を取り込んでいくこと」だと思っています。哺乳類が人間の容姿に似ているから生きていると連想しやすいだけで、野菜だって呼吸をする命ある生き物だし、木だって生きている。私たちは命をいただいて生活している。その事実から目をそらしてはいけない。
狩猟に出会っていなければ、考えなかったことをいろいろ考えます。芽生える感情に後付けで口実をいろいろ考えます。命をいただくって、とても重いんです。
野生動物の保護管理、担い手育成が急務
農林業被害は右肩上がり、野生動物の都市部進出、高齢化の進む狩猟人口…野生動物保護管理の担い手育成は急務、急いで優先してやらなければならないこと。
命の重さに加え、狩猟や野生動物を取り巻く環境には課題がたくさんあります。全部真正面から向き合っていたら、私には背負いきれませんでした。
捕獲された野生動物の皮はほとんど破棄されます。解体するのは大変だから肉すら食べないという場合もあります。無駄なく活用してあげたい、でも全部は背負いきれない。それが現実です。
ひとりでたくさんは背負いきれないので、「自分の手の届く範囲で少しずつ、楽しみながらやる」に割り切りました。荷物を少しずつ背負ってくれる人が増えたら、課題がだんだん軽くなるはず。
まとめ:山を駆ける生き物へ思いを馳せる
知らないのは存在しないのと同じことだと思います。興味を持って、その存在に気づいて欲しい。
私は、野生動物に対してきびしい自然を生き抜く仲間のような、ライバルのようなそんな感覚があります。
お互いの努力に敬意を持ち、同じ土俵・同じ舞台・同じ時代を生きている同胞でもありライバルでもあるような…
地球を蝕む強い力を人間は持っていることを理解しつつも、私も自然の一部でありたいと思っています。
仲間やライバルを思うように、野生動物や動物たちが暮らす環境へ思いを馳せてほしい。そうすることが、興味を持った生き物の課題を解決する第一歩につながります。
「山を駆けるこんな生き物が居る」
「存在を知ることや興味を持つことが、護ること、課題を解決することにつながる」そう願って、私にできることを少しずつ発信していきたいと思います。
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